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専門職こそ必要とされるリベラルアーツの視点──歴史・哲学が「判断力」を底上げする理由

「専門性を磨けば成果が出る」これは多くの現場で真実です。ですが同時に、専門性だけでは解けない問題が増えています。

たとえば、正解が一つに定まらない意思決定、利害が衝突する問題、そして「それはやっていいのか?」という倫理の問い。

こうした局面で必要になるのが、歴史・哲学・文学・社会学など、いわゆるリベラルアーツの視点です。

リベラルアーツは、専門知識を現場で活かすための、判断の土台です。

専門職だからこそ、豊富な知識に支えられた「思い込み」も生まれてしまうかもしれません。

そのため、一歩引いて別の視点から見直すことが、判断の質を高めてくれます。

この記事では、専門職がリベラルアーツを学ぶことで何が変わるのか、さらに、実務の中で取り入れる方法をご紹介します。

リベラルアーツとは何か

リベラルアーツについて、採用と大学教育の未来に関する産学協議会は、以下のように述べています。

「現代におけるリベラルアーツ教育とは、人文学、社会科学、自然科学にわたる学問分野を学ぶことを通じて論理的思考力と規範的判断力を磨き、課題発見・解決や社会システム構想・設計などのための基礎力を身に付けることである。」

引用:「リベラルアーツ教育について」(「中間とりまとめと共同提言」(2019年4月22日、採用と大学教育の未来に関する産学協議会)

つまり、専門分野の知識を深めるだけでなく、幅広い学問を通じて「ものの見方」や「判断の軸」を鍛えることが、リベラルアーツの本質だということです。

人は自分の経験、所属組織、業界の常識、成功体験に縛られます。専門職であればあるほど、このやり方が正しいという前提が強くなりがちです。リベラルアーツは、その思い込みに気づき、必要に応じて考え方をアップデートするための助けになります。

実務は、つい「すぐ役に立つか」で学びを選択してしまいます。しかし本当に難しい仕事ほど、状況が変わっても役に立つ判断力が成果を左右します。変化が速い時代は、知識そのものの賞味期限が短い。だからこそ、知識を扱う力が重要になります。これがリベラルアーツの核です。

専門職にリベラルアーツが必要な理由

専門職は、特定領域で高い精度の判断ができます。一方で、専門性が高いからこそ直面しやすい課題もあります。

1) 専門領域の中だけで正しさを判断してしまう

専門家が導く結論は、専門領域の中では合理的で正しいものです。ただ、その正しさが組織全体や社会全体にとって最適とは限らないことがあります。


たとえば、
• システムとしては効率的でも、現場の運用負荷が大きく回らない
• 数字上は改善していても、顧客の不信感が高まってしまう
• 法律上は問題なくても、社会的な批判を招いてしまう


こうしたズレは、専門性が高いほど「自分の領域の中での正しさ」に集中しやすく、他の視点との摩擦が見えにくくなることで起こります。


リベラルアーツの視点は、「この判断は全体としてどう見えるのか」を問い直すための補助線になります。

2) 前提を疑う機会が減る

専門家は経験を積むほど、「この条件ならこうなる」「だいたいこのやり方でうまくいく」といった判断が迅速になります。これは大きな強みですが、同時に判断の前提を意識しなくなるという側面もあるでしょう。

環境や前提条件が大きく変わったとき、過去の成功体験や勘が、そのまま通用しないこともあります。それでも人は、自分が慣れ親しんだ枠組みの中で考え続けてしまうのです。

リベラルアーツは、「そもそも何を前提に考えているのか」「その前提は今も成り立っているのか」を言葉にして点検する力を養います。専門性にブレーキをかけるのではなく、環境変化に耐えられる判断力へとアップデートするための視点と言えます。

3) 説明責任が重くなる

現代では、「専門家がそう言っているから正しい」という理由だけでは、判断が受け入れられません。医療、法律、技術、経営など、どの分野でも、判断の背景や考え方を相手が理解できる言葉で説明することが求められます。

説明の相手は、患者や顧客だけでなく、社内の他部署、経営層、さらには社会全体にまで広がります。ここで重要になるのが、事実をどう構造化し、どう伝えるかという力です。

哲学・文学といったリベラルアーツは、知識を増やすだけでなく、言葉と思考を往復させる訓練でもあります。専門的な判断を、相手が理解できる言葉で説明できるかどうかは、そのまま「信頼の質」に直結します。

リベラルアーツから学べること

リベラルアーツには、ものごとを多角的に捉えるための知恵が詰まっています。

ここでは、人文科学・社会科学・自然科学というリベラルアーツの代表的な分野から、専門職の思考を支える視点を見ていきます。

人文科学

人文科学は、哲学・歴史・文学といった分野を通して、人が何を考え、どのように意味づけをして行動したかを探る学問です。専門職にとっての価値は、目の前の正解を出すことよりも、その判断がどんな文脈に置かれ、どう受け取られるかを考える力を養う点にあります。

歴史は、過去の出来事を通して「似た構造」を見抜く視点を養います。制度改革や組織運営、危機対応などは、時代が違っても人と社会の反応に共通点があります。流行や表面的な違いに惑わされず、長期的なパターンとして状況を捉える力は、現代のDXや業務改革にもそのまま応用できるでしょう。

哲学は、「問いを正しく立てる」ための学びです。現場で起きる対立や意思決定の停滞は、多くの場合、「どうやるか」ばかり議論して、「何のためにやるのか」を確認していないことが原因です。哲学的思考は、「何を守り、何を優先するのか」といった前提を言語化し、議論の軸を整えます。

文学は、他者の視点に立つ訓練です。人は合理性だけで動く存在ではありません。感情や恐れ、期待といった要素が判断に影響します。物語を通じて他者の内面を追体験することで、専門的な判断を「相手に届く形」で伝える力が磨かれます。

社会科学

社会科学は、経済・政治・社会学などを通して、人や組織が相互に関わる社会の構造を捉える学問です。専門職が置かれている環境を前提に、意思決定がどのような影響を及ぼすのかを考える視点を提供してくれます。

たとえば、どれだけ優れた制度を設計しても、人がその通りに動くとは限りません。評価制度、報酬、権限、慣習といったインセンティブが、実際の行動を左右します。社会科学は、「人は善意だけで動くわけではない」という前提に立ち、現実に機能する仕組みを考えるための土台になります。

また、法律やルールを守っていても、社会的な納得が得られない判断は反発を招きます。社会科学は、「なぜ対立が起きるのか」「どこに利害の衝突があるのか」を構造として捉える手がかりを与えてくれます。

組織マネジメント、政策対応、ステークホルダー調整など、専門知識を社会の中で機能させるために欠かせない視点です。

自然科学

自然科学は、数学・物理・生物などを通じて、自然現象や法則を観察と検証によって理解する学問です。専門職にとって重要なのは、個々の知識そのものよりも、「どのように考え、どのように確かめるか」という思考の型にあります。

自然科学の基本は、不確実性を前提に仮説を立て、検証し、結果をもとに判断を更新する姿勢にあります。限られたデータから結論を急ぐのではなく、試行と検証を重ねながら精度を高めていく。この考え方は、医療、技術開発、品質管理、業務改善など、多くの実務に共通しています。

また、自然科学は、因果関係と単なる相関を区別する訓練です。一時的な数値の変化や成功事例に飛びつくのではなく、「本当の原因は何か」「再現性はあるか」を問い続ける姿勢が、判断の精度を高めます。不確実性が高い状況ほど、断定を避け、検証を重ねることが、専門職の判断を堅実に支えます。

現場で使えるリベラルアーツの思考

リベラルアーツは、知識だけでは効果が出ません。使う「型」を持つと実務に直結します。ここでは、会議や提案書、判断にそのまま使える3つの問いを紹介します。

1) 定義の確認:「それって具体的に何?」

会議や打ち合わせで、「成功」「品質」「安全」「効率」「DX」「顧客満足」といった言葉が、当たり前のように使われることがあります。しかし、こうした言葉ほど、人によって思い浮かべている中身が違います。

 

たとえば「成功」と言っても、
・売上なのか、利益なのか
・短期的な成果か、長期的な関係構築か
・数値なのか、評価なのか
と、解釈はさまざまです。

 

定義を確認せずに議論を進めると、意見の対立に見えても、実は前提がズレているだけという状況が起こります。最初に「その言葉で、何を意味しているのか」「どこまでが含まれるのか」を言葉にすると、議論の土台が整い、話が前進しやすくなります。

これは哲学的な思考の基本「考える前に、言葉を揃える」というシンプルながらも効果の高い問いです。

2)歴史の視点「過去に似た状況はあったか」

新しい施策やプロジェクトでは、「前例がない」「これまでとは違う」と言われることが多くあります。
しかし視点を広げると、自社の過去、業界の事例、社会全体の出来事の中で、実は構造が似たケースは多く存在します。

 

重要なのは、「結果がどうだったか」だけを見るのではなく、
・どんな前提で始まったのか
・どこで行き詰ったのか
・なぜ成功、あるいは失敗したのか
を分解して考えることです。

 

同時に、当時との違いも整理します。環境や技術、規模、関係者が異なれば、同じ結果が得られるとは限りません。この「共通点と相違点」をセットで捉えることで、成功体験の安易な横展開や、根拠の薄い判断を避けることができます。

3) 倫理の視点「誰に、どんな影響があるか」

専門職の判断は、必ず誰かに影響を与えます。顧客、利用者、現場のメンバー、組織、取引先、さらには社会全体まで、その影響は広がります。

 

ここで考えるべきなのは、
・短期的に得をするのは誰か
・長期的に不利益を受ける人はいないか
・直接の影響だけでなく、間接的な影響はないか
という点です。

 

法律やルールが守られているかは最低限の条件であり、それだけでは十分と言えません。「この意思決定を、影響を受ける相手に自信を持って説明できるか?」と自問することが、判断の質を測る強い基準になります。

この問いは、専門性の高さがそのまま信頼につながるかどうかを分けるポイントでもあります。

忙しくても続けられる学び方

リベラルアーツは、まとまった時間を取らなければ学べないというものではありません。むしろ、長期的な継続が、実務での判断に自然と活きてくるものです。ポイントは「自分の仕事と結びつける」ことです。

また、重要なのは、抽象的な知識として学ぶのではなく、今の仕事で直面している課題や判断と結びつけることにあります。そうすることで、単なる知識ではなく、実践的な視点として身についていきます。

たとえば、改革、技術導入、危機対応など、自分の仕事に近い題材の「歴史書」を週に一度読むといいかもしれません。「当時はなぜそう判断したのか」「自分の組織ならどう判断するのか」と問いかけながら読むことで、単なる事例の暗記にとどまらず、判断の軸が蓄積されていきます。

哲学であれば、議論で行き詰まった言葉を1つ定義し直すだけでも十分な実践になります。文学であれば相手の立場に立って内容を要約する練習が有効です。完璧を目指す必要はありません。週に一度、自分の仕事と結びつけて考える時間を持つだけで、物事の捉え方がが変わっていくでしょう。

リベラルアーツが専門性を強くする

リベラルアーツは、専門性の代わりではありません。専門性を現場で正しく使うための、判断となる土台です。

もし今、仕事で「答えが一つに定まらない」「議論が嚙み合わない」「説明をしても相手に正しく伝わらない」と感じる場面が増えているなら、それは能力不足ではなく、求められる判断の種類が変化したサインです。

専門性を深めながら、リベラルアーツで視野を広げる。一見遠回りに見えますが、実は判断の質を高める近道になるかもしれません。

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技術がルーティン業務を担うことで生まれた時間を、判断や学びに充てる。リベラルアーツを学ぶ余裕は、こうした日常の工夫からも生まれてきます。

 

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