私たちの生活の中では今、データやAIを活用した「見える化」という考え方が、少しずつ広がっています。
たとえばスポーツの世界では、選手の走った距離や体への負担を数値として記録し、トレーニングやケガの予防に役立てる取り組みが進んでいます。医療の現場でも、画像やデータを活用して体の中の状態をよりわかりやすく把握し、診断や治療の判断を支える仕組みが増えてきました。
これまで「感覚」や「経験」に頼っていたことを、数字や画像として客観的に捉え直す。こうした「見える化」は、ただ便利になるだけでなく、考え方や取り組みそのものを変え始めています。
この記事では、スポーツ・医療・農業の事例を通して、「見える化」がどのように活用されているのか、詳しく紹介していきます。
スポーツにおける「見える化」の活用
スポーツの現場では、選手の体調やトレーニングの負荷を、指導者や選手自身の感覚で判断することが一般的でした。近年は、ウェアラブルデバイスや映像解析の普及によって、走行距離や心拍数、動作の傾向などを数値やグラフとして把握できるようになり、「見える化」がトレーニングやチーム運営にも取り入れられています。
この章では、こうしたスポーツ分野における見える化の活用について紹介します。
ウェアラブルセンサー「Knows」
SOLTILO Knows株式会社が提供する「Knows」は、GPSを搭載したウェアラブルセンサーで、運動時の走行距離や速度、心拍数、運動強度、疲労回復状態などをリアルタイムに計測できるツールです。プレー中の体の負荷や運動量を数値化し、データを蓄積することで、パフォーマンス向上の指導・育成を支援します。
Jリーグ・サガン鳥栖では、「Knows」を日々の練習や試合に導入し、選手のフィジカルレベルやコンディション管理に活用しています。特に最大速度や加減速回数といった「強度に関わる指標」を重視しており、取得したデータをもとに、練習メニューの調整や試合中の起用判断を検討するための材料として活かされています。
国産メーカーならではの使いやすさやサポート体制、導入コストの低さも評価されており、トラブル時にも迅速に対応してもらえる点が現場運用の安心感につながっています。
さらに、計測データはタブレットに即時反映されるため、試合中でも指導者や選手がその場で状況を確認できます。AIとデータによって、従来は感覚的に判断されていたコンディション管理を科学的に「見える化」し、選手の負荷コントロールとパフォーマンス最大化を両立する取り組みの一例といえます。
出典:スポーツ庁 スポーツ×テクノロジー活用調査事業(するスポーツ)事例集
映像解析・データ分析プラットフォーム「Catapult Pro Video」
「Catapult Pro Video」は、サッカー・ラグビー・バスケットボールなどの競技に特化した映像解析およびデータ分析プラットフォームです。これまでは選手データの分析と映像解析を別々のシステムで行う必要がありましたが、この製品では単一のプラットフォーム上で統合的に扱うことができ、選手のパフォーマンスデータと映像を組み合わせた高度な分析が可能になりました。
MLS(アメリカのプロサッカーリーグ)に所属する Nashville Soccer Clubでは、試合や練習の映像に加え、ウェアラブル端末「Vector」で取得した選手データを併用し、チーム全体・ポジションごと・選手個人のプレー内容を多角的に評価しています。走行量やスプリント回数などの客観データと、実際のプレー映像を結びつけて振り返れるため、「数字」と「プレーの質」の両面から戦術理解を深められる点が特徴です。
さらに、対戦相手の映像分析にも活用されており、相手チームのプレーパターンを整理し、試合前の対策にも役立てられています。従来の映像レビューに比べて、データに基づいた戦術議論ができるようになり、より実践的なゲームプラン策定を支援しています。
導入により、トレーナーやコーチ陣のあいだでの情報共有がスムーズになり、分析から戦術設計までを効率的に行えるようになりました。AIとデータ解析により、プレー内容を可視化することで、チーム戦略の高度化を後押しする取り組みといえます。
医療における「見える化」の活用
近年、医療の現場でも、画像診断やモニタリングデータ、さらにはAIによる解析技術が発展し、体内の状態や微細な変化を数値や画像として可視化できるようになっています。
ここでは、医療における「見える化」がどのように活用されているのか、実例を紹介します。
内視鏡検査の画像診断支援「EndoBRAIN」
医療分野におけるAI活用の代表例として、内視鏡検査の読影を支援する画像診断支援ソフトウェア「EndoBRAIN」が挙げられます。この製品は、平成30年12月6日に医療機器として承認された、疾患鑑別を目的とした内視鏡画像診断支援プログラムです。昭和大学・名古屋大学・サイバネットシステム株式会社が連携し、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けて開発されました。
「EndoBRAIN」は、超拡大内視鏡で撮影された大腸粘膜の画像を解析し、「腫瘍/非腫瘍」の鑑別をAIがリアルタイムで提示します。約6万枚の内視鏡画像を学習しており、専門医に匹敵する正診率98%という高い精度を実現しています。診断結果は「確率」という形で数値化され、たとえば「Neoplastic(腫瘍性):89%」というように、読影の判断材料を視覚的に提示します。
病変の微細な違いを見極める必要がある内視鏡診断において、AIが客観的指標を提示することは、診断のばらつき低減や見落とし防止に寄与しています。
肺炎画像解析プログラム「 InferRead CT Pneumonia」
令和2年6月3日に承認された「InferRead CT Pneumonia」は、株式会社CESデカルトが開発したX線画像診断用のプログラムです。胸部CT画像を用いた肺炎の画像診断を支援する目的で活用されます。
「InferRead CT Pneumonia」は、2020年1〜2月に中国で収集されたCOVID-19肺炎の症例を学習データとして開発されたもので、ウイルス性肺炎の「疑いの程度」や「感染が疑われる領域」を数値や表示によって「見える化」できる点が特徴です。
臨床性能試験では、放射線科医による読影結果と比較し、「COVID-19肺炎に見られる画像所見あり/なし」という観点で判定を検証します。解析結果によって医師の判断材料を補強し、診断のばらつき低減や読影の効率化に貢献しています。
一方で、「InferRead CT Pneumonia」の結果のみで肺炎のスクリーニングや確定診断を行うことは目的としておらず、最終判断は医師が行います。プログラムはあくまで「診断支援ツール」として位置づけられており、人の専門知識とAIの解析力を組み合わせることで、より安全で質の高い医療提供を目指す取り組みといえます。
農業における「見える化」の活用
農業の現場でも、「見える化」による変革が進んでいます。データを活用することで、適切なタイミングで肥料を与えたり収穫を行えるようになり、品質の安定化や作業の効率化につながっています。
ここでは、農業分野における「見える化」の具体的な活用例を紹介します。
クラウド型営農支援サービス「天晴れ」
国際航業株式会社が提供するクラウド型営農支援サービス「天晴れ」は、人工衛星が撮影した田畑の画像を解析し、作物の生育状況や生育差を診断して通知するものです。これまで目に見えにくかった田畑の状態をデータとして把握できる点が特徴です。サービスの利用は専用のウェブページ上で行い、解析結果は診断レポートとして受け取ることができます。
診断レポートでは、小麦や大麦、大豆、水稲、牧草などの作物に応じて、タンパク含有率や穂の水分率、生育状況や収穫適期、不稔株の割合、SPAD値などの指標が提示されます。こうした情報を基に、生産者は田畑ごとの状況に合わせて作業計画を立てたり、追肥や収穫のタイミングを適切に判断したりすることが可能になります。その結果、高収量化や高品質化、省力化に貢献し、より効率的で再現性の高い営農を実現できる点が、「天晴れ」の大きなメリットとなっています。
さらに、「天晴れ」は農業機械や農業ICTサービスとも連携して活用することができ、データに基づく営農管理の基盤として活用されています。
水管理を遠隔化・自動制御化「水田管理システム」
農研機構と株式会社クボタケミックスは共同で、水田の水管理を遠隔化・自動制御化するシステムを開発しました。この水田管理システム「WATARAS(ワタラス)」は、水位や水温などのセンサーデータに加え、給水・排水装置の状態をクラウドに送信し、ユーザーがスマートフォンなどの端末からモニタリングできる仕組みになっています。現地に赴くことなく、水田の状況を確認しながら、遠隔または自動で給排水を制御できる点が大きな特徴です。
センサーデータに基づき、水位が設定値に達すると自動的に給水口を開閉し、水位を一定に保つことで、水管理にかかる労力を大幅に削減できるようになっています。実証では、水管理作業の負担が約80%削減され、さらに給排水の両側制御によって用水量が約50%削減されるなど、省力化と節水の両立に貢献しているとされています。また、適切な水管理を実現することで、収量や品質の安定にもつながり、農業経営の安定化に貢献する取り組みとなっています。
安全面においても、夜間や早朝の見回りを減らしつつ、タイマー設定による給水や、雨天時でも遠隔から状況を把握できるため、作業者の負担軽減とリスク低減につながっています。さらに、水管理の履歴や気象情報をデータとして蓄積し、グラフ表示によって「見える化」することで、管理状況を振り返ったり、次の栽培計画に活用したりできる点も特徴です。稲作カレンダーに基づくスケジュール運転にも対応しており、データと自動化を組み合わせた新しい水管理の形を実現するシステムであるといえるでしょう。
「見る」ことから行動することへ
見える化の本質は、情報を視覚化することそのものではありません。それは、見ることによって理解が深まり、理解によって行動が変わり、行動によって結果が改善されるという一連のプロセスにあります。
スポーツ選手は自分の動きを「見る」ことで技術を磨き、ケガを防ぎます。医師は患者の状態を「見る」ことで正確な診断を下し、早期治療を実現します。農家は作物の生育状態を「見る」ことで適切な管理を行い、安定した収穫につなげます。
私たちは今、人類史上かつてないほど多くのものを「見る」ことができる時代に生きています。しかし、見えることがすべてではありません。見えないものの価値を忘れず、データを盲信せず、プライバシーを守りながら、見える化技術を賢く活用していく知恵が求められています。
AIセファロ分析システム「DIP Ceph」
この記事で取り上げたように、「見える化」は判断の質を高め、説明や共有の在り方を変えていく技術です。
矯正歯科の領域でも、その一端を担う取り組みとして活用が広がっているのが、クラウド型AIセファロ分析システム「DIP Ceph」です。
DIP Cephは、矯正歯科専門医によって開発されたシステムで、独自のDIP法(デュアルインサイザルプランニング法)とAI解析を組み合わせることで、
・分析業務の効率化
・分析精度の標準化
・患者説明の質の向上
を同時に実現します。
矯正歯科診療の「見える化」や説明品質の向上にご関心のある方は、ぜひ一度ご検討ください。
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