専門職のキャリアが進むほど、必要とされる力は“自身の専門性”から“専門家集団を動かす力”へと大きくシフトしていきます。
厚生労働省の「能力開発基本調査」(令和6年度)では、50歳以上の層で最も重視される能力は「マネジメント能力・リーダーシップ」となりました。
また、正社員の95.4%が「向上させたい能力がある」と回答し、その中で最も伸ばしたい能力は「マネジメント・リーダーシップ」でした。
こうした結果から、リーダーシップの重要性がこれまで以上に高まっていることがうかがえます。
出典:厚生労働省 令和6年度「能力開発基本調査」
専門職の現場は、メンバー全員が高度な判断軸を持ち、正解が一つに定まらない領域です。
だからこそ、声の大きさや権限による“管理”ではチームは動きません。
求められるのは、成果と信頼を両立させ、現場全体が動く構造を設計するリーダーシップです。
本記事では、一般的な専門職に共通する「チームがまとまる仕組み」のつくり方を、実務に落とし込める形で解説します。
専門職のリーダーシップは「指示」より「設計」
専門職チームの難しさは、メンバーが未熟だからではなく、一人ひとりが高度な判断を持っている点にあります。
したがって、リーダーの役割は「全部決める人」ではなく、次の3つを設計する人になります。
目的(Why) |
|
基準(What good looks like) |
|
仕組み(How) |
|
強い専門職は「やり方・手段」を自分で持っています。
だからこそ、リーダーは個人の手法に踏み込むより、目的・基準・仕組みを明確にし、チーム全体で合意することに力を使うことが、速く、確実に前に進みます。
マネジメントとリーダーシップの違い
専門職の現場ではこの違いが実務に直結します。
- マネジメント:計画、配分、進捗、リスク、リソースの最適化
- リーダーシップ:意味づけ、方向づけ、関係づくり、意思決定の質向上
専門性が高いチームほど、管理だけでは成果が伸びません。
なぜなら、成果は「各人の判断の質」と「連携の質」で決まるからです。
リーダーシップは、判断がぶつかる局面で“チームとしての納得解”をつくる技術とも言えるでしょう。
“議論は自由、決定は一つ”をつくる4ステップ
チームをまとめる=全員が完全同意、ではありません。
むしろ、専門職ほど意見の不一致は自然です。
重要なのは次の順番です。
- 情報の非対称を減らす
- 論点を1つに絞る
- 決定手段を確立する
- 決まった後の自由度を確保する
「議論は自由、決定は一つ」。
この線引きを仕組みとして持てると、意見が強いメンバーがいてもチームは壊れにくくなります。
それぞれ詳しく解説します。
1.情報の非対称を減らす
専門職の衝突は「能力差」よりも、前提のズレから起きます。
まずは目的、成功条件、使える資源(人・時間・予算)、守る制約(法令・安全・品質基準)を見える化し、同じ項目で議論できる状態をつくりましょう。
例えば医療分野の場合、患者背景や現場事情のような暗黙の情報ほど共有対象です。
共通の一次情報が揃うと、意見の違いは「対立」ではなく「検討」に変わります。
2.論点を1つに絞る
議論が荒れるときは、実は論点が同時多発しています。
「治療方針」「説明の順番」「担当配置」「費用」などが混ざるほど、正しさの衝突が人格批判にすり替わりやすいので注意しましょう。
そこで、会議冒頭に“今日決めることは一つ”を宣言し、論点をホワイトボードに固定します。
派生論点は別枠として管理し、後日扱う。
焦点が定まるほど、合意形成は速くなります。
3.決め方を決める
専門家同士の会議で起きがちなのが「誰も決めない」状態です。
合意を目指しすぎると、結論は先延ばしになります。
そこで、責任者が決める、多数決などの意思決定の形式を事前に定義します。
合わせて期限を設定することも重要です。
決め方が透明であれば、結果に不満があっても納得しやすく、次の改善提案も建設的になります。
4.決まった後の自由度を確保する
決定後に大事なのは「統一」と「裁量」の線引きです。
専門職は“やり方”に自負があるため、手段まで縛ると反発が出ます。
守るべきはアウトカムと安全・品質の基準、そして禁止事項。
そこさえ守れば、手順や工夫は各自に任せるのが強い運用です。自由度があるほど当事者意識が上がり、改善も回りやすい。
リーダーは監督ではなく、境界線の設計者になります。
判断に迷ったときの“5つの確認ポイント”
専門職の現場では、正しさが一つに定まらないからこそ、判断の軸がぶれやすくなります。
議論が拡散したり、メンバー間の認識がずれたり、決定が遅れたりするのは、能力不足ではなく“確認すべき項目が抜けている”だけのことが多いです。
そこで、チームを前に進めるためにリーダーが押さえておくべきなのが、次の「5つの確認ポイント」です。
これらを一つずつ点検するだけで、判断の質は安定し、チームの納得度も上がります。
①目的を“成果物”に落とす
「質を上げよう」「患者満足を上げよう」「効率化しよう」だけでは動けません。
専門職の現場では、言葉が抽象的なままだと各人が“自分の正解”で動き、成果が分散します。
だからこそ、成果物と測り方まで落とすのがリーダーの仕事です。
ポイントは「誰が見ても同じ判断ができる形」になっていること。迷ったら「それができたと言える証拠は何?」と問い直しましょう。
例:
「説明の質を上げる」→「初回説明の標準資料を作り、同意率/再診率を追う」
「連携を強化する」→「引き継ぎテンプレを統一し、差し戻し回数を減らす」
②“期待値”を言語化する
専門職のチーム崩壊の多くは、能力差ではなく期待値のズレです。
「そこまでやるつもりだった」「その粒度は想定してない」が積み重なると、不信感に変わります。
次の4点を文章で揃えるだけで衝突は激減しますが、さらに一歩進めて、品質優先、ただし期限は絶対、などの「優先順位」も添えると強いです。
口頭だけで済ませず、短いメモでも残すのがコツです。
- 期限(いつまでに)
- 品質(どこまでやればOKか)
- 形式(誰が見ても使える形か)
- リスク(やってはいけないこと)
③1on1は「評価」ではなく「詰まりの除去」
専門職はプライドも責任も大きい分、詰まりを抱え込みます。
1on1の目的は説教ではなく、障害物の撤去です。
特に効くのは「解決策を渡す」のではなく「詰まりの種類を特定する」こと。
詰まりが分かれば、打ち手は意外とシンプルになります。
たとえば、あるスタッフが「症例検討の資料作成が毎回遅れる」と話した場合、原因はスキル不足ではなく、「どこまで書けば十分なのか基準が曖昧」「前回の資料が探しにくい」「先に誰へ相談すべきか分からない」といった構造の詰まりであることが多いものです。
このように、詰まりを構造の問題として扱うだけで、本人の負担は軽くなり、チームの生産性も自然と上がります。
さらに、1on1の最後に「次の一手」を一つだけ決めて終えると、次回まで前に進みます。
④摩擦を早期に扱う
専門職の摩擦は、表面上はロジックでも、根底に「尊重されていない」「安全に発言できない」が潜みがちです。
放置すると、会議の沈黙、陰での不満、協力の目減りとして表に出ます。
対立を恐れず、事実→解釈→要望の順で扱うと燃えにくいです。
ここでのコツは人物ではなくプロセスを主語にすることです。
「あなたが悪い」ではなく「論点が増えたことで決めにくくなっている」と、現象を中心に語ることで、個人批判に聞こえなくなります。
⑤権限移譲は「丸投げ」ではなく「境界線の設計」
任せるときは「全部自由」にしないことが重要です。
専門職ほど裁量が大事ですが、同時に守るべき線も明確でないと事故が起きます。
自由にしていい範囲と、絶対守る線をセットにして渡しましょう。
さらに、初回は途中レビュー、2回目以降は事後共有など「レビューのタイミング」まで設計すると、任せた側も任された側も安心です。
【医師向け】医療の現場でリーダーシップが難しくなる3つの壁
医療の現場は、判断に関わる情報が多層で、正解が一つに定まらないうえに、職種・役割・専門分野が複雑に交差する特殊な環境です。
そのため、一般的なビジネスのリーダーシップとは違い、高度な専門性を持つ多様なメンバーを動かすという独自の難しさがあります。
ここでは、とくに臨床・歯科・矯正領域で生じやすい「3つの壁」を整理し、なぜリーダーシップが難しくなるのか、そしてどこに手を打つべきかを解説します。
壁①「正しさ」が複数ある
医療の意思決定は、エビデンスだけでは完結しません。
患者の背景、施設の資源、継続性といった要素が同時に絡み、どれも無視できない“正しさ”として立ち上がってきます。
そのため、専門性が高いチームほど意見の衝突は自然です。
ここでリーダーがやるべきは「より正しい答え探し」ではなく、判断の土台となる基準を先に揃えることです。
たとえば「安全を最優先する」「説明可能性を重視する」「再現性を担保する」「費用対効果のラインを明確にする」といった判断軸を合意しておくと、議論は価値観のぶつけ合いから基準に照らした検討へ変わります。
基準が共有されるほど、意見が割れても決定は速く、決定後の納得感も残りやすくなります。
壁②階層構造で「言いにくさ」が発生する
医療現場は、経験年数、専門領域、職種、役割の違いがはっきりしている分、心理的な距離が生まれやすい構造です。
若手や他職種が「違和感はあるけれど言いにくい」と感じる場面が増えると、リスクは静かに蓄積します。
結果として、問題が大きくなってから表面化し、現場は疲弊してしまいます。
そこで必要なのは「勇気を出して言おう」という精神論ではなく、言えるようにする型と場の設計です。
たとえば、指摘が人格批判に聞こえないように「事実→リスク→代替案」の順で話すルールを置く、会議の締めに短い発言ターンを全員に回す、決定前に「反対意見があるなら今言う」時間を明確に確保する、といった運用が効きます。
型があると、発言は個人の度胸ではなく仕組みとして発生し、情報の取りこぼしが減ります。
リーダーは発言内容をコントロールするのではなく、発言が自然に出る構造をつくる役目です。
壁③説明責任が重い
医療では、治療そのものと同じくらい「伝える力」が成果に直結します。
患者や家族が納得し、継続し、選択できる状態をつくるには、情報の整理と説明の設計が欠かせません。
特に歯科領域では、状態の理解、必要性の納得、治療選択というプロセスが丁寧であるほど、介入の質も満足度も上がりやすい一方、説明が曖昧だと院内で言い回しや基準がバラつき、患者対応もブレます。
だからこそ、リーダーシップの重要な部分は「説明を標準化する」ことです。
標準化は現場の自由を奪うためではなく、最低限の再現性と安心を担保し、チーム全体の説明品質を底上げするための土台になります。
共通の説明フレーム、用語の定義、説明順、確認すべきポイントが揃うと、誰が担当しても説明の芯がぶれず、メンバーはその上で自分の専門性を活かした補足や個別最適に集中できるようになるでしょう。
専門職リーダーの仕事は「人を動かす」より「現場が動く構造をつくる」
専門職の組織マネジメントで本当に効くのは、カリスマでも強権でもなく、
- 目的・基準・仕組みを設計し
- 意見の不一致を健全に扱い
- 共通言語で再現性を高める
という、地味で強いリーダーシップです。
もしあなたが歯科・矯正の現場で「説明のブレ」「判断の属人化」「チーム教育の負担」に課題を感じているなら、DIP Cephのような“見える化と標準化”を支えるツールは、マネジメントの武器になります。
DIP Cephは、セファロ分析を“誰が見ても同じ基準で解釈できるフォーマット”に統一することで、治療計画・説明資料・症例共有の一貫性を高めるために設計されています。
以下のページでは、具体的な機能が詳しく紹介されています。
→詳しくはこちらをご覧ください。